ウイスキーロックの丸氷は表面積が最小である、は本当なのか?
丸氷が、最も表面積が小さいため、氷が溶ける量が少なく
ウイスキーが水っぽくならない説。 それって本当?
丸氷と立方体の氷で、表面積を比較してみます。
まず、丸氷のサイズから、
全国津々浦々のBAR、一軒一軒ヒアリングするのは難しいので、
市販の丸氷製氷器を参考にします。
サイズを決めるに当って、おそらくBARで聞き取り調査しているはず。
サントリー「ポーラーアイストレイ」 直径6cm
ニトリ「俺の丸氷」 直径6cm
ドウシシャ「丸氷製氷器」 直径6cm
佐野商会「氷さく」 直径6cm
各社横並びで、直径6cmの丸氷設計。
さらに、とある県外のBARブログ。
そのバーテンダーは、丸氷と角氷とでどちらが溶けるか
検証しており、そのブログでは重さ115gの氷が使われています。
水は凍るときに、体積が11分の1ほど膨張するらしいので、
115g×12/11=125.45cm³
4/3πr³=125.45
πr³=125.45×3/4
r³=125.45×0.75÷π
r³=125.45×0.75÷3.14
r³=29.964171
r=3.105995
体積125.45cm³の丸氷の半径は3.1cm、つまり直径6.2cmで、
こちらのBARは市販の製氷器の規格とほぼ同じ。
丸氷の直径6cmと規定し、計算します。
丸氷と同じ質量=体積の角氷(丸氷が粘土のように変形し、
角氷になったと思えば、同一のものだとイメージしやすい?)は、
一片の長さ4.83cmの立方体。
丸氷の表面積 4πr²=113.09cm²
立方体氷の表面積 4.83×4.83×6=140.31cm²
表面積は、丸氷の方が小さい。
但し、グラスに氷を入れてウイスキーを注いだ状態の表面積に非ず。
続けます。
非常に悩まされたのが、グラスの形状と大きさを
どのように設定するか、です大変。
複雑なグラスの形状では計算が難しいので(僕には無理ィィィィ)、
円柱のグラス・ウイスキー30mlと仮定し、2パターン考えます。
直径6cmの丸氷がピッタリ収まるサイズのグラスには、
立方体氷はその対角線が6.82cmで6cmを超えるため、入らない。
対角線の長さ 一片の長さ×√2=4.83×1.414=6.82cm
ピッタリ氷が収まる円柱グラス、高さ4.83cmの直径6.82cm。
そのとき円柱の体積 πr²h=π×(6.83×1/2)²×4.83=176.44cm³
円柱の体積から立方体の体積を引いた部分が、ウイスキーが入れる隙間。
円柱体積-立方体体積=176.44-113.09=63.35cm³
1cm³=1mlなので、63.35mlのウイスキーが入るということ。
ウイスキーを30ml入れた場合、高さ何cmのところに来るか...
x/4.83=30/63.35
x=2.28
ウイスキー30ml入れたとき、液面は2.28cmの高さ。
そのとき表面積は、2×4.83(4.83+2×2.28)=90.70cm²
イラストの灰色箇所は氷内部に面しているので、除外します。
90.70-(4.83×4.83)=90.70-23.32=67.38cm²
この表面積と比較するための丸氷グラスは、2パターン。
#1 「丸氷にピッタリサイズ」
直径6cm、高さ6cmの円柱グラスに入れた場合の比較。
円柱の体積 πr²h=169.64cm³
円柱の体積から丸氷の体積を引いたら、169.64-113.09=56.55
球の形状を無視して(無視してOK? ダメ?)ウイスキー30mlとの
比率を計算すると、
x/113.09=30/56.55
x=59.99cm²
各々の氷がそれぞれギリギリ入るサイズのグラスを使用した場合、
丸氷の方が表面積が小さくなります。
丸氷:59.99 立方体氷:67.38
#2 「立方体氷と同じ直径のグラス」
直径6.82cm・高さ6cmの円柱グラスに丸氷を入れた場合の比較。
円柱の体積 πr²h=3.14×(6.82×1/2)²×6=219.18cm³
円柱体積-丸氷体積=219.18-113.09=106.09
単純比率で、ウイスキー30ml入れた場合の丸氷の表面積を計算。
x/113.09=30/106.09
x=31.97cm²
#2グラスを使用した場合、丸氷の方が表面積が小さい。
丸氷:31.97 立方体氷:67.38
#1も#2のどちらでも、丸氷の方が表面積が小さい結果になりました。
シングル30mlからダブル60mlへ増やしても、同様の結果。
#1 丸氷の表面積96.12cm² 角氷の表面積132.75cm²
(容量56.55cm³に対し60mlを注ぎ、浮力により氷が0.51cm浮かぶ?)
#2 丸氷の表面積63.95cm² 角氷の表面積132.75cm²
更に、両グラスの口径7cmの円柱・ウイスキー量30mlのケースで計算しても、
丸氷の表面積28.82cm² 角氷の表面積46.67cm²
両グラスの口径8cm円柱・ウイスキー量30mlでも、丸氷の表面積が小さい。
丸氷の表面積18.01cm² 角氷の表面積26.18cm²
しかし、現実には丸氷の方が溶けやすいとの意見を耳にします。
考えうる原因は...
仮説1「丸氷はグラスの中で動くから」
氷がグラスの中で動けば動くほど、氷はよく溶けます。
https://www.tsukuba.ac.jp/community/kagakunome/pdf/11jushou/jrhigh/2322.pdf
https://www.nichirei.co.jp/koras/category/ice/008.html
氷が動くと、温度が低くなった氷の周辺の液体が移動し、
温度が高い液体が氷のまわりに集まります。
熱は温度が高い方から低い方へ伝わるので、より熱が氷に
移動するのは、形状的に動きにくい角氷よりも動きやすい丸氷。
しかも、丸氷って溶けるときに、完璧な球体に削れてないか、又は
氷内部の密度の差かで、バランス崩して自然に動いたりしますよねー
因みに、某バーテンダーの検証動画は、丸氷が動いてしまっているから
固定して実験した方が良いと思いますね。 あ、批判じゃないです。
だって、この方の設問が「丸氷と角氷はどちらが溶けるか?」なので。
仮説2「水とガラスとでは熱伝導率が違うから」
前回、自分が計算に用いたのは、左の円柱グラス。
計算し易いからそうしたのですが(苦笑)、市販のロックグラスは
程度の差こそあれど、右のように内側が湾曲した形状になっています。
右グラスに立方体の氷を入れた場合、こう。
丸氷を入れた場合と比較。
上から見ると
水色の箇所は、氷とグラスとの接触部分。
右の円中心部分の点は、グラス底部と丸氷が接した箇所です。
丸氷を丸氷とピッタリなグラスに入れた場合は、
丸氷の方がグラスとの接触面が大きくなります。
水の熱伝導 0.582w/mk
ガラス(ソーダ)の熱伝導率 0.55~0.75w/mk
ガラス(鉛)の熱伝導率 0.6w/mk
鉄の熱伝導率 83.5w/mk
アルミの熱伝導率 236w/mk
銅の熱伝導率 398w/mk
あまり気にしなくても良いような、数値の差....?
もし、グラスが水よりも強力な熱伝導を持っていたなら、
(立方体の角が溶けて、あるいは最初から)立方体底部が
グラスと接した場合、氷が多量に溶けてゆくことになります。
そうならないなら、熱伝導は無視してもいい.... かも。
そもそも、丸氷と角氷の表面積を比較することは存外に至難で、
対照実験を行うのに必要な条件が揃わないんですよねー
条件1. 氷の体積(質量)を揃える。 ←OK
条件2. ウイスキーの分量を揃える。 ←OK
条件3. 比較に適したグラスの形状とサイズは? ←これ!
グラスの口径・大きさが異なるだけで、表面積は随分と
変わってしまいます。
そこに、丸氷と角氷の形状の違いも関係してきたり...
それぞれの氷の形状に、グラスを合わせて比較すべき...?
検証するために最適なグラスが解からない....
もし、丸氷の方がより多く溶ける結果になったなら、
実験に(実際に飲むときに)用いたグラスが、左ではなく
右のような形状をしているから。
内側のカーブで体積が減った分、液面が上がり
グラス側部と接していた氷との間にウイスキーが存在することで、
摩擦係数が下がり、氷がより動き、より融解する結果となります。
結論。
「丸氷と角氷はどちらが表面積が小さいか?」の問いは、
グラス次第じゃない? としか言えない... スミマセン
ただ、底面積の小さい丸氷の方が有利になりがち ボソ
「丸氷と角氷はどちらが溶けにくいか?」の問いならば、
グラス次第じゃない? に加えて、氷が動くか動かないか、そして
計測時間は?(一日後なら結果は同じだよ)が関係してきます。
そもそも、丸氷と角氷はどちらが?という質問自体が、不充分。
正しくは、「グラスAを用いて、ウイスキー分量Bを注ぎ、時間Cが経過
したとき、動かないよう固定した、それぞれ体積Dの球体と立方体の氷は、
どちらがより溶けているか?」と、条件提示の必要がある設問です。
ま、そう問われたところで答えられませんけどね 苦笑
以上、計算間違いや見落とし、そもそもの考え方が間違ってるぞ、
等々のご指摘、お待ちしております。
できれば、円錐台に各氷を入れた場合の計算、誰かしてください~
尚、計算は、Casioさんの「Keisan」サイトを利用しました。
数値入力すれば体積や表面積を自動計算してくれる有難いサイトで、
全てこちら様の御蔭。 僕に計算できるわけないだろう 苦笑