料理の化学、酒の化学

ロバート・ウォルク著 「料理の化学 一巻・二巻」。


ワシントンポストで掲載されていたコラムを書籍化したものなので、
堅苦しい書名とは裏腹に、専門書ほど難しくなく適度な読みやすさ。
また、酒の分野にも汎用可能な話もあって、なかなか興味深い内容に
なっています。



例えば、ウイスキーなど蒸留酒の説明で、水とアルコールの沸点差を利用し、
先にアルコール分を抽出するとゆう、おなじみの解説は厳密には正しくなく
ワイン煮などの料理がアルコール分の全てを燃焼・蒸発するか否かを
論説された章に、正答への糸口を見出すことができます。



純粋なアルコールが78℃で沸騰し、純粋な水が100℃で沸騰するのは
事実です。 だからといって、水とアルコールを混ぜてもそれが変わらないという
わけではありません。 水とアルコールは互いの沸点に影響を与え合うのです。
水とアルコールの混合液の沸点は、78℃と100℃の間のどこかです。
ほとんど水なら100℃に近くなり、逆にアルコールがほとんどなら
78℃の近くになります。  − 略 −  水とアルコールの混合液が煮立ったり
沸騰したりして発生する蒸気は、水蒸気とアルコール蒸気の混合物で、
いっしょに蒸発します。 しかし、アルコールは水よりも蒸発しやすいので、
蒸気中のアルコール比率は、液体に占めていた割合よりもいくらか高くなります。



つまり、蒸留とはアルコールと水との沸点差を利用し、先にアルコール分だけを
分離させることではなく、正しくは、沸点差により蒸気中に含まれるアルコール分が
水よりも多くなることを利用し、よりアルコール度数の高いものにすること。



余談ですが、アルコールを使用した料理は、煮詰めてもアルコール分が
料理に残っているのだそうです。 運転手は気をつけて!



他に興味深いのは、塩について書かれた章。


塩をそのまま口にする場合は別として、料理に塩を入れる場合、
塩の産地など拘ったところで、その違いが料理にもたらす影響は
ほとんどない模様...



微妙な風味のちがいを感知できたとしても、料理に塩を使うときの
希釈係数は五万倍になるのですから、そんな風味はまちがいなく
消えてしまいます。 計算すればわかることです。
約3000gのシチューに入れた小さじ一杯、6gの塩に含まれる添加物は0,06g。 
3000÷0.06=50000、です。



味覚音痴と呼ばれるのが嫌で言えなかったけど、そうだと思ってた!
塩に拘るなら、形状の違いとサイズによる、食感と口溶けの差!



塩に関する誤解は、他にも本書で述べられていて、例えば
ミネラル豊富な印象がある海塩は、実はミネラル分がほとんど無いとか
ピンクや黒色した塩は、土地の泥や藻類の色によるもので、独特な味も
それらに由来するとか、ミルミキサーで塩を挽いても、塩は揮発性物質を
含まないので、香りが立つことはないとか...  


この本に、処刑される飲食店も多い.. かも? 苦笑