18世紀のシャンディガフ

もし、ハリー・ジョンソンのカクテルブック出版の、1888年以前に
既にシャンディガフが存在していたなら、どうでしょう。



仮に、わずか一世紀前、
18世紀の英国でシャンディガフが誕生していたとしたら..



ペールカラーの生姜風味の弱いジンジャーエールは、1907年誕生だから
使用ジンジャーエールは、ベルファストであるのは間違いありません。



18世紀の英国は、対仏戦争の影響で従来の取引ルートが断たれ、
物価が上がり経済が疲弊した挙句に、食品偽装が噴出した悪名高き時代です。
偽装を告発したフレデリック・アークムの論文には、
ビール醸造業者の偽装方法の数々が挙げられています。



色を調整するために、カラメルを添加。
風味を調整するために、塩化カリウムを添加。
酸味を変えるために、燐酸を添加。
甘みを出すために、糖蜜や蜂蜜を添加。
香りをよくするために、オレンジの皮を添加。
苦味を出すために、苦木やニガヨモギを添加。
ピリっとした味を出すために、カプシクム(唐辛子属)を添加。
泡を増やすために、りょくばん(鉱物)、ミョウバンを添加。
その他、甘草や削った鹿角、塩、生姜(!)、コリアンダー
グレーンオブパラダイスなど様々な材料が、ビールの混ぜ物工作に使われています。



痙攣性毒薬のコクルス・インディクスを有害だと知りつつ、
使用した醸造業者がいたことには、驚きを禁じ得ません。
スコットランド醸造所、Brewmeisterの欺瞞が可愛く感じられます?



詳しい方はお気づきでしょうが、前述の添加物の中には、
人体に無害な材料で、現代のビアスタイルにとって必須の材料も含まれています。 
オレンジの皮やコリアンダーは、ベルギー発祥のホワイトエールに使われますし、
塩とコリアンダーは、ドイツの伝統ビールのゴーゼに使用されます。
最近では、インペリアルスタウトに唐辛子を加える醸造家がいます。



時代が違えば、ビールの定義も変わるということですね。



さて、そんな時代にシャンディガフが作られていたと想定するならば、
低品質なビールをなんとかして飲めるように、試行錯誤した末に
生み出されたカクテルだったかもしれません...



そして、使用されたビールは、18世紀当時もっとも人気があった
(= もっとも流通していた)ポーターであった可能性が高い...
しかも現代の上品なポーターではなく、開放式発酵槽で複雑味ある味わい、
悪く言えば雑味があるものだったはず。



ロナルド・パティンソン著 「ポーター !」の記述から、1800年以前の
ポーターは、大樽で6〜18か月間貯蔵されていたとあり、その事から
当時のポーターは酸味と微弱なブレット香を伴っていた可能性も生じます。
あるいは、酸っぱくなったブラウンエールなど3種類のエールを
混ぜたスリースレッド説からも。


となれば、現代作られているビールを使用すると、綺麗に作られすぎて
当時のシャンディガフのニュアンスが表現できません。



もし、ポーターでシャンディガフを作るのであれば、現在入手できる銘柄だと
僕ならカーネギー・ポーターを選択します。



■ New style - Shandy Gaff

sound brewery tripel entendre
fresh grapefruit juice
fresh ginger



カーネギーポーターで作らんのかーい 苦笑


ベルジャン・トリプル・スタイルのビールに、グレープフルーツ果汁、
生姜のすりおろしをミックス。
ベルジャンの強いガス圧によって、ジンジャエールを用いなくとも
従来のシャンディガフと同様のシュワシュワ感が得られます。



昨今、飲まれているシャンディガフは、ホップの効いた爽やかなピルスナー
軽やかな甘さのドライ(ペール)・ジンジャーエールで作られます。


それって、18世紀・19世紀のシャンディガフと比較すれば、
シャンディガフとゆうよりも、ビールにレモネードや炭酸飲料を加えた
ビアカクテル(シャンディやパナシェ、ラードラー)に近いですよね?


このレシピは、18世紀のシャンディガフではなく、現代のシャンディガフ
傾向を、さらに進化させたシャンディーガフになります。



元祖を追い求めるのも、現在のレシピを発展させるのも、
どちらもカクテルメイキングの正道・醍醐味でしょ?